緊急時の行動計画を構築することの主な目的

役割を決めて、エラーを最小限に抑える

緊急時の行動計画を文書にしてスタッフ全員がこれを熟知していれば、各スタッフが自分の役割、責任、指揮系統をしっかりと把握できているため、救急処置時のストレスを軽減することができます。役割を明確にすることで、チームワークを向上させ間違いが減ります。これに加えて、頻繁にチームで演習をしておくことで、実際の現場ではチームは自主的に活動できるようになり、チームリーダーは指示を出す時間を減らし、考える時間に当てることができます。

定期的な器具のメンテナンスと確認

現代のスポーツの救急処置訓練は、悪条件下での様々な器具の使用も含みます。計画作成の段階で、緊急用医療器具が状況に適していること、必要時にいつでも使用可能な良い状態にあることを確実にしておくべきです。例えば、自動体外式除細動器(AED)は、フル充電の状態にあり、パッドが「使用期限内」であるかどうかを定期的に確認します。確認内容はエビデンスとして文書に記録しておきます。計画では、すべての器具が緊急時にすぐにアクセスでき、最短時間で現場に持ってくることができるような適切な場所に保管されるように義務付けます。例えば、AEDは心停止から3分以内にショックを与えれるように、適切な場所に保管しアクセスしやすいようにしておきます。

いくつかの器具では、保管する際に極端で過酷な気候も考慮に入れなければなりません。例えば、除細動器のバッテリー動作気温は0~30度ですが、極寒の冬や暑い気候では問題となるので、適切な保管場所を検討しなければなりません。同様に、酸素や脊椎用の器具も所定の場所にあるか、保管、または、運搬時に壊れていないかの確認プロセスも計画に組み込んでおきます。

新しい環境のリスク評価と行動計画

初めて訪れる試合会場などの新しい環境では、器具、スタッフ、搬送経路などに関しても、予期せぬ危険が潜んでいます。緊急時の行動計画の構築を習慣的にすることで、現場に到着してすぐにこれらの事項を確認するようになり、階段や細い通路などの障害を回避して負傷者のことを最優先に考えた最終手順や搬送経路を確保することができます。

効果的なコミュニケーション

効果的なチームワークを促進すると共に、現場スタッフ、および、緊急サービス機関との通信手段をしっかりと構築しておきます。遠隔地の練習場や携帯電話の受信が悪い場所などは、予め把握しておき、無線やその他の通信手段を使用することを計画内で明確にしておきます。

スキルトレーニング、および維持の基準

「スポーツにおける病院前環境での救急処置」は、一般的な病院前環境での処置における特定専門分野であり、ピッチサイドにスタッフを待機させる必要性や背景、また特定のスポーツで発生する外傷の特徴を反映させたスキルを学び、医師が関与します。スタッフの訓練は、資格取得時、および再教育訓練を含め、この点を反映させた内容を盛り込みます。

再教育訓練を行わない場合、最大92%の実技能力を1年で失うとされており、医療従事者にとって技術維持は大きな課題となっています。、意識不明のプレーヤーの管理、器具の操作、身体の固定処置を伴う搬送など、一般的なシナリオを用いた組織内での訓練を2~3カ月に一回は行うことを「緊急時における行動計画」で義務づけ、推奨することが重要です。年次の更新だけでは不十分です。

トレーニングと試合会場

プレーヤーは、活動期間の80%を練習に費やします。一般的に練習環境ではスタッフが少ない状況で緊急事態がが起こり得ます。行動計画と作業手順の基準は、ホームとアウェイ両方の試合、および練習向けに策定します。

反省的実践と臨床的ガバナンスを通じた学習

救急処置を必要とする事象はすべて、スタッフの全員に反省し学習する機会を与えてくれます。ガバナンス制度を設けることにより、報告、業務手順の見直し、監査、緊急時の行動計画の変更範囲を可能にし、継続的な活動を促進します。スポーツの現場ではけがに対する新たな知識を得ることもあり、行動計画にもこれらの変更を反映させます。

図1: 緊急時の行動計画の構築における実践の反省

標準作業手順(SOP)と緊急時の行動計画には、次のような利点があります:

  • 臨床スタッフのストレスを軽減する
  • エラーを軽減する
  • 確認作業を通して器具のエラーを軽減する
  • チームワークを向上する
  • プレーヤーのケアの質を向上する
  • すべてのシナリオで最低基準の達成を支援する
  • 反省、学習、有意事象分析(SEA)、監査を支持する