脱臼

関節の脱臼は、2つの骨が関節面が離解している状態です。骨折との臨床的な区別が難しく、脱臼と骨折が同時に発生する場合もあります。臨床的に疑わしければ、処置を施す前に、四肢を副木固定してX線写真を撮影します。脱臼は通常軟部組織の損傷を伴いますが、痛みの軽減や二次損傷の予防のために、整復の前後で固定が必要となります。

肩脱臼

ラグビーでは、肩の外傷がけが全体の20%を占め、膝の外傷に続き2番目に多い外傷です。肩の外傷のうち35%が反復性の外傷です。ラグビーの試合のうちで肩の外傷の原因となる最も多いプレーはタックルで、全体の49%を占めます(Brooks et al、2005)。急性の肩関節脱臼はラグビーでは比較的多く、そのうち95~98%が前方脱臼です。

肩の前方脱臼は、最も一般的には、外転し外旋した上肢が進展した状態で転倒した際に後方から力がかかることが原因と説明されています。ラグビー選手の肩の外傷を特別に分析した研究では、強制外転・外旋(ABER)位が再発損傷の32%を占めると報告されています。これは、タックルの場面や、トライを取ろうとした時に上肢を伸ばしてボールを持ったまま着地した時のことです(Funk and Snow 2007)。後方脱臼は、一般的ではなく、通常、肩が内旋・内転している時に前方から力が加わることで起こります。

症状: 大抵の場合、コンタクト後に発生し、プレーヤーが肩の痛みや機能障害を訴えます。

前方脱臼: プレーヤーは通常、腕を抱え込み体の側面にくっつける姿勢を取ります。一般的に、三角筋の丸みが消失しますが、最近のプレーヤーは肩パッドを着用することが多いため、外観からこの状態を確認することはほぼ不可能です。触診で認識できることがありますが、肩パッドを着用している上にフィットしたジャージを着ているので、判断が難しい場合があります。上腕骨頭を、三角筋胸筋溝での盛り上がりとして触診できる場合もあります。

自動運動を試みると痛みを伴い、また、可動域にも制限が生じます。ほとんどのプレーヤーは、肩関節の脱臼を自覚しています。橈骨動脈脈が触れるかを確認して記録します。可能であれば、ジャージの「エンブレム」部位に相当する箇所、すなわち三角筋付着部付近の知覚を確認しますが、これはジャージやパッドなどを考慮すると実践的でないかもしれません。この触診では、腋窩神経にも影響しているかどうかを確認し記録しておきます。橈骨神経が損傷されていないかは、手関節と肘関節機能を評価し、手部背面の知覚低下の存在で判定します。

後方脱臼: 腕を内転、内旋させた状態で来院することもあれば、反対側の手で腕を前方挙上させ、腕を下げようとすると痛みが増すと訴えます。外転や側転を試みても痛みがあります。肩峰の下には後方の膨らみがあり、触診で確認することができますが、これも衣服やパッドによって確認が難しい場合があります。前方脱臼の場合と同様に神経血管のチェックを行う必要があります。

プレーヤーをフィールドオブプレーから退出させる: 脱臼の疑いがある場合は、プレーヤーをフィールドオブプレーから退出させます。一般的に、プレーヤーは自力で歩くことができ、腕も自分で保持できます。この場合はジャージを腕を覆える位置まで裾から巻き上げてサポートとして使用します。または、ポリスリングで腕を胸部の周りで包み込むようにします。

整復法: できるだけ早く鎮痛薬を投与します。脱臼が起こった際には、早期の整復が推奨されます。筋のスパズム、および、神経血管構造の引き延ばしと圧迫軽減します(Christofi T、et al 2007)。

医療従事者が自信をもって整復を実施しなければ、整復に失敗し、さらなる筋肉スパズムを促し、プレーヤーを必要以上に不安にさせてしまいます。よって、自信を持ち、統制の取れた整復を実施するようにします。無理やり骨を元の位置に戻そうとしないでください。さらなるダメージの原因となります!

Spaso: プレーヤーを仰臥位にします。救助者は脱臼している側に立ち、脱臼している方の手首を両手で掴んで腕をゆっくりと上げて90度屈曲させます。この間少し牽引を加えます。その後に肩を外旋させると、自然に整復されます。

コッヘル法:  背もたれのある椅子にプレーヤーを座らせて、脱臼している腕を肘で90度曲げます。肘を内転させて身体につけます。救助者は、プレーヤーの手首を持って、抵抗を感じるまでゆっくりと腕を70~80度外旋します。腕をできるだけ高く前方に上げます。ここで、肩を内旋してプレーヤーの手を反対側の肩へ持っていきます。上腕骨頭が関節窩に滑り込むように収まります。

ミルヒ法(修正):  背もたれのある椅子にプレーヤーを座らせて、脱臼している肩の側に立ち、プレーヤーに近い方の手を肩帯の上に置いて、肩甲骨を固定します。腕を手首で持って、ゆっくりと100度まで外転させます。この間、腕を持ち上げながら外旋します。これで自然に戻らない場合は、アシスタントに上腕骨頭を、愛護的に前方から押してもらいます。

スティムソン法: プレーヤーを検査台にうつ伏せに寝かせ、脱臼している方の腕を台の横に垂らしてもらいます。アシスタントが下方向に牽引するか、5~10kgの重りを手首に装着して下方向に牽引します。この時手が床に触れないようにします。肩の筋肉が緩み自然に整復します。

整復後は、神経血管の状態を再評価して記録します。腕は、胸部の周りと腕をスリングで包み込むようにして、医療機関に搬送し、X線写真、その他必要な治療、および、フォローアップを行います。

肘脱臼

肘関節は、上肢の中では2番目に脱臼が発生しやすい関節であり、若い成人や青年期に多い傾向にあります。肘の関節周辺は骨形態や筋肉の付着により安定した形状であるため、肘脱臼では全体の90%が後外側方向の脱臼です。

手を伸ばした状態で手の上に体重がかかる転倒や肘への直接的な衝撃が、一般的な肘の後方脱臼の原因です。

徴候と症状

  • 受傷時の激痛
  • 肘機能の消失
  • 見た目で確認できる変形
  • 脱臼箇所の圧痛
  • 肘の膨張や打撲傷
  • 脱臼箇所から下方のしびれや麻痺
  • 手首の脈波の低下、または消失

関節の整復を行う前に神経結果の状態を確認して記録し、十分な鎮痛薬を投与します。

整復を行う前に、橈骨神経(手関節背屈運動)、正中神経(回内)、尺骨神経(第四肢、第五指)の機能を検査します。

正中神経や上腕動脈は、整復中に関節に挟まれることで縮小時に損傷することがあります。神経血管の状態が変化した場合は、医学的緊急事態であり、病院への迅速な搬送が必要となります。

整復: 傷病者を仰向けに寝かせ、患部の腕を側転させ、わずかに屈曲させます。助手が上腕骨に牽引と反対方向に力を加え、助手と同じ側にいる医師が傷病者と向き合う姿勢で、屈曲して多少回転しているプレーヤーの前腕をプレーヤーの身体の横で持ちます。ここで肘頭の上方に両手の指を「引っ掛けて」、前腕をまっすぐ牽引します。

代替法としては、診察台の上にプレーヤーにうつ伏せ/腹臥に寝てもらい、肩を外転させて上腕骨は台がサポートするようにして肘を固定します。医師は手首の上を掴んで前腕を持ち上げます。もう片方の手で肘回りの上腕骨を固定させます。親指は肘頭の上に置いたまま、ゆっくりと前腕を正中牽引します。この時親指は少し圧力を加えて整復を補助します。

整復後は、神経血管の状態を再確認して記録します。プレーヤーの腕はスリングでサポートとして医療機関に搬送してX線写真を撮ります。

潜在的な合併症:

  • 上腕動脈の損傷
  • 神経損傷
  • コンパートメント症候群
  • 橈骨頭、および/または、尺骨の鉤状突起の骨折
  • 骨折、および内側上顆の絞扼
  • 異所性骨化(骨化性筋炎)