コーチングのヒント

フィールド上でのフィジカルコンディショニングエクササイズ

フィジカルコンディショニングの強化に、特別な用具はあまり必要ありません。この項では、フィールド上でわずかな用具だけでできるエクササイズをいくつか紹介します。このようなセッションは、筋力トレーニングの経験が浅く、機能的筋力もまだあまりないプレーヤーにとって、第一歩となるトレーニングです。体を鍛えてから適切なテクニックを教えていくセッションは、解剖学的適応と言えるでしょう。このような方法によって、プレーヤーは、さらに上級の筋力トレーニングを、安全に、かつ、適切な進め方で身に付けるのです。プレーヤーが、機能評価を行わず、解剖学的適応を経て次の段階のエクササイズを行うことなく、いきなり上級のストレングス&コンディショニングプログラムを行えば、パフォーマンスにマイナスの影響があり、ケガの可能性を増やしてしまう可能性があります。以下に挙げたようなエクササイズは、資格のあるストレングス&コンディショニングコーチの監督のもとで行うことが大事です。

ここで紹介するセッションは、あくまでも、成人チームがフィールド上で行えるものの一例です。回数や時間は、プレーヤーのその時のテクニックや経験のレベルによって決めてください。エクササイズ1から始め、番号順にサーキット形式で行うのが最も良い方法です。一順したら休憩を取り、プレーヤーの経験値とテクニックに合わせて決めた回数だけ、繰り返してください。

1. 腕立て伏せ



姿勢を固め、両腕をまっすぐ伸ばす。胸が地面に着くように体を下げ、胸、肩、三頭筋を使って、元の姿勢に戻す。

エクササイズの間は常に、背中をまっすぐ平らにし、上下運動のコントロールを維持する。肩と腰が一直線になるようにし、お尻が上がったり下がったりしないようにする。

2. 片足バランス



片足で立ち、地面についている方の足を軽く曲げて体重を支える。背中をまっすぐにして前へ身を乗り出し、両腕を左右に伸ばす。もう一方の脚は後ろにまっすぐ伸ばし、少しだけ角度をつける。

 

3. YWTL

このエクササイズは、うつ伏せになって行う肩のサーキットエクササイズで、上背と肩の筋肉の強化し、安定させる。Y、T、W、Lのアルファベット文字は、うつ伏せになったときの腕の形を示す。



Y  両腕を、肩よりも上、頭上45〜90度の角度に上げる。親指が空を指すようにすると、肩甲骨付近の肩関節の筋肉を動かすことができる。

T  両腕を、胴から90度の角度でまっすぐに伸ばす。親指は空を指す。肩甲骨を下げ、後ろに引いた状態にし、90度の角度を保つ。

W  上腕を、胴から45度の角度に上げ、前腕はそこから90度上げて、両腕でWの形になるようにする。手首、肘、肩のラインを一定に保つ。

L  上腕を体の側面になるべくぴったりと付け、前腕はできるだけ90度に近い状態にする。両肘を胴に押し込むようにする。肘、手首、肩のラインを一定に保つ。

4. ボディウェイトスクワット



このエクササイズは、下半身の筋力、安定性、柔軟性を鍛えると同時に、体幹の安定性も強化する。両足を肩幅よりも少し大きく広げ、つま先は、中指がひざと一直線になる方向へ向ける。かがむ前に、深呼吸して肺を膨らませ、上背と下背が動かずぴんと張るようにする。調節しながらかがみ、背中をまっすぐにしたまま、なるべく低くスクワットする。顎は胸から離し、目はまっすぐ前を見て、背中をしっかり平らに保つ。腰とお尻を体の後ろへ押しながら腰を落とすようにし、体重はかかとにかける。体を起こすときには、胸と頭を上に上げ、腰を上げながら前へ出す。かかとを床に押し付けながら、まっすぐ立った状態に戻す。

 

5. ブリッジ



このエクササイズは、体幹の安定性を鍛え、ハムストリングとお尻の筋肉を強化する。仰向けに横たわり、腰を上げ、ひざから肩が一直線になるようにする。かかとが床にぴったりとついているようにし、手のひらも床に押し付けるようにする。おへそを背骨の方へ押し込むようにし、お尻の筋肉を動かす。

6. ランジ



足を一歩前へ出し、後ろ足の膝を曲げる。背中をまっすぐ、地面に対し垂直に保つ。前足の膝がつま先よりも前に出ないようにすること。最初の姿勢に戻り、もう一方の脚で同じ動きを繰り返す。

 

7. パートナープル



このエクササイズは、2人1組で行う。1人目が地面に寝そべり、2人目がその上にまたがる。またがったら、背中をまっすぐにしたままかがみ、腕を肘から曲げる。寝そべっている方の人は、相手の腕を懸垂バーにようにつかみ、かかとを軸にして、体をまっすぐにしたまま地面から引っ張り上げる。

8. サイドブリッジ



このエクササイズは、胴の両側と下背の筋肉を強化する。
体を横向きにし、肘と足で支える。腰を、調節しながら軽く地面に触れるように下げたら、今度は上げて、もとの姿勢に戻す。体は一直線のまま、内側にも外側にも回転しないようにする。肩、腰、膝、足首を一直線に保つ。

 

9. シングルレッグスタンス


腰に手を当て、片足で立つ。もう片方の足の膝は、90度に曲げ、膝上げランニングのように上げる。その際、つま先は自分の方へ丸める。両方の足で同じくらい長い時間バランスを保てるようにする。

10. ハムストリングドロップ



ペアで行うとよい。1人のプレーヤーが膝で立ち、もう一人のプレーヤーがそのすぐ後ろに座る。柔らかい表面に膝立ちし、ペアの相手の足首を持って固定する。その状態で、足首を固定されたプレーヤーが、よい姿勢でゆっくりと前へ体を落とす。地面に手をつく際は、手のひらを開いて衝撃を和らげる。肩甲骨を下げ、かつ、後ろへ引き、背中をまっすぐに保つ。顎を胸から離し、頭から落ちないようにする。前に倒れるプレーヤーは、ハムストリング筋ばかりを集中的に使ってしまわないよう、自分の体を押し戻すようにする。

免責事項

フィジカルコンディショニングプログラムを実行する予定の場合は、事前に公認の医師より医療アドバイスを受けるものとします。ラグビーのスキルおよび関連するフィジカルコンディショニングについての情報、指針は必ず適切な資格を持つトレーナー、コーチ、レフリーのアドバイスに沿って利用するものとします。

ラグビーのための機能的筋力トレーニング

ボディウェイトドリルから機能強化トレーニング器具の取り入れへのレベルアップ

ラグビーはコンタクトスポーツなので、プレーヤーは、コンタクトプレーでのバランスと安定性を維持できるだけの強さが必要です。プレーヤーは、タックルをするときも、相手に抵抗するとき(例:タックルされた時)も、筋力を利用できなくてはいけません。機能的なストレングス&コンディショニングプログラムによって得らえるもう一つのメリットは、ケガをしにくくなることです。首、肩、腰、膝および体幹では特に大事となる、筋肉と関節が鍛えられます。

ウェイトトレーニングは、ラグビープレーヤーに幅広いメリットをもたらしてくれる、優れた筋力トレーニングです。しかし、すべてのプレーヤーが、トレーニンググラウンド併設のウェイトトレーニング施設や近くのジム、スポーツセンターなどを利用できる環境にあるとは限りません。

ウェイトトレーニングは、きちんと資格をもったストレングス&コンディショニングコーチ、または、経験のあるフィットネスインストラクターの監督のもと、行われなければなりません。その理由は大きく次の2つです: 第一に、健康と安全のため。第二に、セッションの内容が、ラグビーに関連した、そして、特化したものでなければならないため。きちんと守れば、適切なスタッフがいないラグビークラブで何らかの問題が起こるのを防いでくれます。

右記の自分の体重を用いたサーキットの写真は、初歩としてとても有効ですが、段階を追ってレベルを上げていくことが重要です。このサーキットは、機能強化トレーニングの器具を使って行うことができます。筋力強化にとどまらず、柔軟性、安定性、バランスの強化にもなります。

タイヤ、メディシンボール、スタビリティボール、また、斜め懸垂用トレーニング器具を使えば、実用的で便利なウェイトトレーニングの代わりになります。これらのトレーニング器具はすべて、特定の目的がない全般的な筋力とは対照的に、機能的筋力の発達を促します。 このサーキットは、ウェイトトレーニングと同様、総合的な体全体のコンディショニングにも効果です。しかも、より安価で、室内でも屋外のトレーニングピッチでも使える多目的な選択肢として考えられます。また、器具であれば、ラグビークラブで使用する際、収納保管もしやすいでしょう。 さらに、どのエクササイズも応用が利きます。また、ダッシュ力、タックル、スクラムなど、ポジション別に求められる特性の強化にも役立ちます。